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京都簡易裁判所 昭和47年(ハ)470号 判決

原告 木村俊彦

被告 小林き久ゑ 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由

第一、求める裁判

一、請求の趣旨

被告らは原告に対し別紙目録記載第二の家屋から退去して同目録記載第一の土地を明渡し且つ昭和四七年七月一日から右明渡済に至るまで月額金八、一〇〇円の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決および仮執行の宣言を求める。

二、これに対する答弁

主文同旨の判決および仮執行免脱の宣言を求める。

第二、事実上および法律上の主張

一、請求の原因

1、原告は、昭和四六年一〇月二六日に、競落により別紙目録記載第一の土地(以下、本件土地という。)の所有権を取得し、同年一一月六日に、その所有権取得登記を経由した。

2、ところで、訴外京都永大ハウス販売株式会社(以下、訴外会社という。)は、なんらの権限もないのに、本件土地上に別紙目録記載第二の未登記建物(以下、地上建物という。)を所有して、本件土地を占有していたので、原告は、訴外会社に対し、右建物を収去して本件土地を明渡し且昭和四六年一一月七日から右明渡済に至るまで月額金八、一〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める趣旨の訴を京都簡易裁判所に提起し、同裁判所は、昭和四七年五月三〇日に原告勝訴の判決を云渡し、同判決は確定した。

3、地上建物は、原告が本件土地の所有権を取得した当時には、空家であつたので、原告は、訴外会社に対してのみ、地上建物の収去を求めたのであるが、原告が前記の原告勝訴の判決を得て建物収去の執行に着手しようとしたところ、被告らが、昭和四七年五月頃から、これを共同占有使用していることが判明した。ところで、被告らが占有使用中の地上建物については、既に収去の判決が確定していて、被告らが地上建物を占有して本件土地を占有するについては、原告に対抗することができるなんらの権限も存しない。

そこで、原告は、被告らに対し、地上建物からの退去による本件土地の明渡を求めると共に、本件土地の競落代金一六二万円の年六分に当る金九万七、二〇〇円を一二等分した金八、一〇〇円が本件土地の月額地代相当額であるから、被告らが占有を開始した後の昭和四七年七月一日(原告訴訟代理人は同年六月一日を起算日と主張するが、七月一日の誤記と認める。)から土地明渡済に至るまで月額金八、一〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

二、答弁に対する反対主張

1、被告らは、原告が競落により本件土地の所有権を取得した当時、京都市伏見区東柳町五一五番地に居住していたもので、地上建物に居住していたものではない。

2、地上建物につき被告ら訴訟代理人の主張する保存登記は、所有者を誤つた無効な登記である。

3、被告ら訴訟代理人は、地上建物につき法定地上権の精神を援用するが、その法理を援用する根拠がない。すなわち、本件土地上は、原告がこれを競落した当時、借地権を有しない訴外会社所有の建物が存在し、被告柳川和雄所有の建物は存在しなかつたが、訴外岡本節子は、同被告に対する神戸地方法務局所属公証人円藤正秀作成第二五、一八八号公正証書の執行力のある正本に基き、地上建物につき、同被告の所有建物として、不動産強制競売の申立をなし、京都地方裁判所において、この申立により不動産強制競売開始の決定をなし、昭和四五年八月二七日、債権者代位により同被告名義の保存登記と共に、強制競売申立の登記を経由したところ、訴外会社は、地上建物が同被告の所有物件ではなくて訴外会社の所有物件である旨を主張して、訴外岡本節子の右強制執行に対して第三者異議の訴を提起し、その相手方被告である同訴外人において、訴外会社の請求を認諾し、地上建物に対する競売の申立を取下げたのである。このように、競売手続の開始後、第三者が所有権を主張して訴を提起し、競売を排除した建物については法定地上権の法理を準用する余地がない。いわんや、被告らは、競落により土地の所有権を取得した原告に対抗することができる地位(借地権)を有しないのみならず、本件の地上建物については、建物収去の判決が確定しているのである。

4、被告ら訴訟代理人は、権利の濫用または信義則の違反を主張するが、その根拠がない。すなわち、本件土地については、訴外上田博において、昭和四四年五月二〇日、被告柳川和雄に対し、本件土地を担保として、金一三〇万円を貸与し、同月二七日、抵当権設定登記を経出し、右被担保債務の不履行により、その取立のために、右抵当権実行のための任意競売の申立をなし、京都地方裁判所は、この申立に基き、昭和四六年三月三日、不動産競売手続開始決定をなし、翌三月四日、任意競売申立の登記を経由する一方、前記のとおり、地上建物につき、訴外岡本節子の申立により、強制競売申立の登記を経由し、本件土地および地上建物の一括競売手続を進めていたが、訴外会社より、地上建物につき、第三者異議の訴が提起せられたので、本件土地のみが競売せられ、原告が競落によつてその所有権を取得したしだいである。このように、競落により適法に所有権を取得し競売手続上明白になつた事実に従い、訴外会社を相手方として建物収去土地明渡を訴求して勝訴の判決を得、その執行の段階で被告らの占有の事実が判明したので、本訴を提起する等、借地権の存在しない土地の所有者として、その所有権を行使してきた原告に対し、債務の不履行により債権者に多大の損害を及ぼした従前の債務者である被告柳川和雄が、地上建物建設当時の敷地が自己の所有であつたとか、地上建物は自己が使用していたとか、地上建物の代金の六割は自己が支払つたことを理由に、訴外会社の地上建物所有権は形式的なものにすぎなかつたとか、抵当権者と原告が特別の関係にあつたとか等を理由に、原告の請求を以て権利の濫用であり信義則の違反であると主張するのは、全く当らない主張である。なお、地上建物につき、一旦、被告柳川和雄の所有物件として競売手続が開始されたのを、訴外会社の所有物件として強制執行を排除し、本訴では、実質上は、同被告の所有物件として、この実質上の所有権の存在を前提とする権利の主張をなすのは、却つて、全く信義則に戻るものといわなければならない。

三、答弁の要旨

1、被告柳川和雄は、昭和四二年一〇月二四日に、訴外本部藤義より本件土地を買受け、同月二五日、売買による所有権移転登記を経由したが、本件土地は、当時、田であつたが、所定の手続を経て、宅地として、同被告の所有地となつたものである。同被告は、当時、京都市伏見区東柳町で、同被告の亡妻柳川あさ子の母である相被告小林き久ゑと共に、右柳川あさ子の妹の経営する旅館業を手伝つていたが、独立して飲食店を経営するために、本件土地を買入れたものである。

2、被告柳川和雄は、訴外会社との間で、代金四三万六、〇〇〇円、所有権留保付月賦支払の特約で、地上建物の建築請負契約を締結したが、訴外会社は、昭和四三年一二月一五日に着工して同月一八日に完成し、同被告は、地上建物の引渡を受け、その後、被告ら両名は、地上建物に居住し、翌昭和四四年二月頃より、パン、牛乳、飲料水等の販売を始め、昭和四六年九月二七日には、被告小林き久ゑ名義で飲食店営業の許可を受け、被告柳川和雄の二子(当一五歳と当一〇歳の男児)と共に、商売を維持しながら、現在に至つたもので、その間、一日でも、これを空家にした事実は全くない。地上建物の請負代金は、昭和四七年二月二一日に完済し、その所有権は、被告柳川和雄に移転した。

3、ところで、同被告は、資金の必要上、昭和四三年一一月二八日に、訴外昭和産業株式会社との間で、本件土地につき、抵当権を設定、その後、二人の債権者との間で、抵当権を設定したが、原告は、昭和四六年一〇月二六日に、競落により本件土地の所有権を取得した。訴外昭和産業株式会社の分を除き、右抵当権設定の原因である融資については、すべて、原告が、被告らの営業の継続を援助するために、これを仲介斡旋したのみならず、原告は、被告が訴外会社よりプレハブ店舗住宅を建築した前記の事情一切と被告らが建築後引続いて居住営業を継続している事情を熟知しており、競落当時はもとより、前記各融資を受けた当時、関係者が現場で現物を現認した上で行われたものである。すなわち、原告は、競落当時、被告らが地上建物に居住して営業を営んでいる事実を十二分に承知の上で競落により本件土地の所有者となつたもので、その土地の評価につき、その地上に地上建物が建築されていることは、当然、考慮されている筈である。

4、地上建物については、昭和四五年八月二七日、京都地方法務局向日町出張所に強制競売の登記をするために、地上建物のうち床面積二二・一四平方米につき、所有権保存登記がなされ、昭和四七年五月二四日には、その増築分床面積四五・三九平方米につき、所有権保存登記がなされている。

5、なお、被告柳川和雄は、原告が競落により本件土地の所有者となつたので、訴外会社を通じ、昭和四六年一一月より昭和四七年一月まで、月額金八、一〇〇円の割合による損害金を提供し、同年三月より五月までは、月額金四、〇〇〇円の割合による地代を京都地方法務局に供託している。

6、抵当権設定時には、本件土地は、被告柳川和雄の所有物件であつたが、地上建物は、訴外会社を売主とし同被告を買主とする所有権留保付割賦販売契約により、被告らにおいて、これを使用収益していたものである。ところで、所有権留保付割賦販売契約における法律関係につき、買主は、契約の成立によつて目的物件の引渡を受け、代金完済までの間、貸借類似の関係において、これを使用収益するのであるが、所有者(売主)は使用者(買主)に使用収益をなさしめる積極的義務を負い、使用者は将来目的物件を返還する義務を負うという、貸借としての基本的要素を欠き、従つて、目的物件の滅失の危険負担は買主が負い、代金債務は残存し、公租、公課、修繕義務は買主の負担となり、買主の保管義務は、善良な管理者の注意義務ではなくて自己の財産に対すると同一の注意義務を負うに過ぎず、賃貸借なり使用貸借に関する規定を準用ないし類推適用を見る余地は、殆んど存しないのであるから、純然たる売買であり、買主は、準所有者である。従つて、本件土地に抵当権が設定された当時、被告柳川和雄は、地上建物の(準)所有者であるから、原告による本件土地の競落により、地上建物につき、法定地上権が成立したものといわなければならない。すなわち、プレハブ建築当時、その敷地である本件土地は、被告柳川和雄の所有であること、地上建物は、昭和四三年一二月一八日に既に完成して同被告に引渡され、その後、被告らが居住し営業を継続してきたこと、抵当権設定当時、地上建物の所有者は、形式的には訴外会社であつても、同被告は、当時既に代金総額の約六割の支払を完了していたこと、原告は、抵当権者であつた訴外上田博と特別の関係にあり、被告らの右の諸事情を十分知悉しているのみならず、競落に当つては、現物を十分承知の上で本件土地の所有者となつたこと等の諸事情を考慮すれば、法定地上権によりその地上建物が保護されるのと同一の精神から、本件についても、地上建物の保護を認むべきであり、原告の主張は、権利の濫用または信義則の違反である。

7、原告訴訟代理人の主張する請求認諾は、訴外会社と訴外岡本節子との間における第三者異議訴訟におけるもので、被告柳川和雄に対する関係では、なんら効力を及ぼさない。

第三、認定した事実および判断

一、争いのない事実

つぎの事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

1、原告が、昭和四六年一〇月二六日に、競落により本件土地の所有権を取得し、同年一一月六日に、その所有権取得登記を経由した事実、

2、右競落当時、本件土地上に、訴外会社所有の建物(増築前の地上建物)が存在していた事実。

二、証拠によつて認定した事実

成立に争いのない甲乙各号証ならびに証人の証言および各当事者(原告および被告柳川和雄)本人尋問の結果を綜合して、つぎの事実を認定する。

1、被告柳川和雄は、昭和四二年一〇月頃に、飲食店を経営する目的で、本件土地を買受け、同月二五日に、その所有権移転登記を経由し、ついで、訴外会社との間に、代金四三万六、〇〇〇円(記名押印により真成に成立したものと推定される乙第三号証(訴外会社の証明書)の記載による)所有権留保付割賦支払の約定で、本件土地上に、地上建物建築の請負契約を結び、昭和四三年一二月一〇日頃にその完成後直ちにその引渡を受け、翌昭和四四年一月頃に、その妻(昭和四六年二月三日に死亡)の母である相被告小林き久ゑと共に、地上建物に入居して飲食店を開き、逐次、店舗を拡げたことはあるが、その間、休日を除き、昭和四五年一二月頃から昭和四六年三月末まで、被告柳川和雄の妻が京都市伏見区東柳町五一五所在の妻の妹名義の旅館(被告らが地上建物に入居前の居住地である)で死亡するまで、地上建物における店舗を閉めたことは別として、被告らは、現在に至るまで、地上建物に入居営業を続けている。

2、被告柳川和雄は、昭和四七年二月二〇日に、訴外会社に対し、地上建物の割賦代金の支払を完了した。なお、記名押印により真正に成立したものと推定される乙第二号証(訴外会社名義の建物引渡証明書)の記載によれば、地上建物が昭和四七年二月二一日に被告柳川和雄に引渡されたのであるが、その「引渡」は、同被告本人尋問の結果と綜合して、割賦金の支払完了による所有権移転ひいては訴外会社の所有権留保の解消を意味するものと解する。もつとも、地上建物については、訴外岡本節子の強制競売の申立により、昭和四五年八月二七日に、被告柳川和雄のために、所有権保存の登記を経由したことは後に見るとおりである(成立に争いのない甲第五号証(登記簿謄本)の記載)。

3、原告が昭和四六年一〇月二六日に競落により本件土地の所有権を取得した事実は、前に見たとおり、当事者間に争いのないところであるが、いずれも成立に争いのない甲第一号証(登記簿謄本)、同第七号証(不動産競売手続開始決定)および同第二号証(競落許可決定および更正決定の各正本)の各記載によれば、被告柳川和雄所有の本件土地については、訴外上田博が金一三〇万円の貸付金債権および遅延損害金につき、昭和四六年三月二日付で昭和四四年五月二七日登記の抵当権実行のためになした不動産競売の申立により、京都地方裁判所(昭和四六年(ケ)第四九号)は、昭和四六年三月三日に、競売手続開始の決定をなし、翌三月四日に、任意競売申立の登記を経由し、同年一〇月二六日に、最高価金一六二万円の競買申出をした原告に対し、競落許可決定があり、同年一一月六日に、原告のために競落による所有権移転の登記があつた事実を認めることができる。なお、後に見るように、その間、京都地方裁判所では、右の訴外上田博対被告柳川和雄の本件土地に対する任意競売事件(昭和四六年(ケ)第四九号)および訴外岡本節子対同被告の地上建物に対する強制競売事件(昭和四五年(ヌ)第四八号)を併合して、両物件の競売につき、本件土地、および地上建物を一括して、昭和四六年五月一三日に、最低競売価額を金二〇二万一、〇〇〇円、競売期日を昭和四六年六月一〇日午前一〇時とする旨を記載した不動産競売期日の通知をなしたことは、成立に争いのない甲第八号証(不動産競売期日通知書)の記載の示すところである。

4、他方、いずれも成立に争いのない甲第六号証の一および二(強制競売開始決定および更正決定の各正本)ならびに甲第五号証(登記簿謄本)の各記載によれば、京都地方裁判所は(昭和四五年(ヌ)第四八号)、昭和四五年七月二七日に、債務者柳川和雄(本件被告)に対する債権者訴外岡本節子の金二〇万円の公正証書の執行力のある正本に基く同訴外人の申立により、地上建物(プレハブ住宅店舗)に対し、強制競売開始決定をなし、被告柳川和雄のために、所有権保存登記を経て、昭和四五年八月二七日に、強制競売申立の登記がなされたことを認めることができる。昭和四五年(ヌ)第四八号の右強制競売事件および昭和四六年(ケ)第四九号の前記任意競売事件とが併合せられ、一括して競売に付せられたことは、前に見たとおりである。

5、ところで、いずれも成立に争いのない甲第三号証(認諾調書正本)および甲第五号証(登記簿謄本)の各記載によれば、訴外会社を原告とし、訴外岡本節子を被告として提起された、前記の京都地方裁判所(ヌ)第四八号強制競売事件に対する第三者異議事件(京都地方裁判所昭和四六年(ワ)第七八二号)の第三回口頭弁論期日(昭和四六年一〇月二五日)において、訴外岡本節子は、その被告として、地上建物に対する強制競売に対する訴外会社の第三者異議の請求を認諾し、ついで、同月一六日に、同月一三日強制競売申立取下を原因として、強制競売申立登記の抹消がなされた事実、さらに、いずれも成立に争いのない甲第四号証の一(判決正本および確定証明書)の各記載によれば、当裁判所は、本件原告を原告とし、訴外会社を被告とする建物収去土地明渡請求事件(昭和四六年(ハ)第八八六号)につき、昭和四七年五月三〇日に、本件の地上建物を収去して本件土地を明渡し且つ昭和四六年一一月七日から右明渡済まで月額金八、一〇〇円の割合による地代相当の損害金を支払うべき旨の本件原告勝訴の判決を言渡し、その判決が確定し、原告が訴外会社に対し、同年六月一九日に、その執行文の付与を受けた事実をそれぞれ認めることができる。

三、争点とその判断

1、所有権留保付割賦支払の約款のある売買における割賦代金完済前の買主の地位について見るに、所有権留保が割賦金支払のための担保的機能を果たすことは、論をまたないから、売主の留保する所有権は、対第三者の関係においてまで、なんら負担のない所有権と同一の機能を持たないものというべく、これを買主の側面からいえば、目的物件の所有者は、売主ではなくて、買主であると認めるのが相当である。この法理は、いわゆる譲渡担保、代物弁済の予約、買戻の特約等の法形式が経済上の担保目的に利用せられ、経済上のみならず、法形式上も、担保的機能に即応して、法の諸問題が処理せられている現状から見ても、首肯せられることである。建物の建築を目的とする請負契約についても、建物の所有権が何時注文主に帰属するかの一般論は別にして、右の事情は、売買におけると同一である。

2、地上建物につき、訴外岡本節子に対する訴外会社の第三者異議訴訟における請求認諾がその執行債務者である本件被告柳川和雄にその効力(既判力)を及ぼさないことは、明らかである(民事訴訟法第五四九条第一項、第二項参照)。

3、本件原告を原告とし訴外会社を被告とする当裁判所昭和四六年(ハ)第八八六号建物収去土地明渡請求事件の本件原告勝訴の判決は、昭和四七年五月三〇日に云渡されたのであるが、前に見たとおり、被告柳川和雄は、これより先き、昭和四七年二月二一日に割賦金を完済し、名実共に、地上建物の所有者となつているのであるから、右の原告勝訴の確定判決が同被告に既判力を及ぼさないことは、いうまでもなく、現に、原告は、同被告らに対し、地上建物よりの退去と本件土地の明渡を求めているのである。

4、そこで、被告らのために、被告ら訴訟代理人の主張するように、原告所有の本件土地につき、法定地上権が認められるかどうかの点であるが、被告柳川和雄が昭和四四年五月二七日に訴外上田博のために原告の競落の基礎となつた抵当権を設定した当時、被告らは、既に完成を見た地上建物に入居営業していたことは、前示認定のとおりであり、被告柳川和雄は、訴外会社に対し、割賦金の支払を完了していなかつたにしても、所有権留保付割賦金支払の売買なり請負における買主なり注文主として、目的物件である地上建物につき、所有者としての保護を受け得る地位にあるのであるから、原告が競落により本件土地の所有権を取得した本件においては、本件土地につき、法定地上権を対抗できるものと認むべきである。

原告の請求は、その理由がない。

(裁判官 小野木常)

別紙 目録〈省略〉

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